すべてが始まる夜に
*
「部長、ここです」
路地裏の目的のお蕎麦屋さんの前に着いて、私はお店の外観を指さした。
「へぇー。こんなところに、こんな蕎麦屋があったんだな。じゃあ、入るか」
躊躇なく部長がドアを開けて店内に入り、私も続いて中に入る。
厨房から「いらっしゃいませ」と威勢のいい男性の声がして、お盆を持った女将さんのような着物を着た女性が笑顔で出迎えてくれた。
店内にはお蕎麦の出汁のいい匂いが充満していて、カウンターでお蕎麦を食べている人や、テーブル席にはスーツ姿のおじさまたちが楽しそうにお酒を飲んでいる。
てっきりテーブル席へと案内されるのかと思っていたら、着物を着た女性が私たちをカップルだと勘違いしたのか店の奥の個室へと案内してくれた。
靴を脱いで掘りごたつになっている席へ座る。
「掘りごたつっていいよな。なんか落ち着くな」
おしぼりで手を拭きながら掘りごたつの下を覗いてみたり、個室の中をきょろきょろと見渡す松永部長。
「そ、そうですね。掘りごたつの席があるなんて知らなかったです」
「ここにはよく来るのか?」
「たまに。休みの日に美味しいお蕎麦を食べたくなったときに来るんですけど、お昼って定食だけなんですよね。この夜のメニューの出汁巻き玉子がどうしても食べてみたくて。お蕎麦屋さんの出汁巻き玉子って美味しそうじゃないですか。だけど夜にひとりでここにはなかなか来れないし入りづらくて」
「なるほど。じゃあ、しっかり出汁巻き玉子を堪能するといい。あそこで夜ごはん食べ損ねたんだろ」
松永部長が意味深な顔をして私に視線を向ける。
その視線に先ほどのカフェでの出来事を思い出し、視線を泳がせてしまう。
「そんな顔すんな。俺のせいで悪かったな。他に好きなものがあったら遠慮せず頼めよ」
ニコリと笑った部長がテーブルの上に置いてあったメニューを開いて私に見せてくれた。
元気のなさそうな部長が心配でごはんに誘ったのに、逆に気を遣ってもらってるじゃん。
もう、私は何してるんだろう。
「部長、ここです」
路地裏の目的のお蕎麦屋さんの前に着いて、私はお店の外観を指さした。
「へぇー。こんなところに、こんな蕎麦屋があったんだな。じゃあ、入るか」
躊躇なく部長がドアを開けて店内に入り、私も続いて中に入る。
厨房から「いらっしゃいませ」と威勢のいい男性の声がして、お盆を持った女将さんのような着物を着た女性が笑顔で出迎えてくれた。
店内にはお蕎麦の出汁のいい匂いが充満していて、カウンターでお蕎麦を食べている人や、テーブル席にはスーツ姿のおじさまたちが楽しそうにお酒を飲んでいる。
てっきりテーブル席へと案内されるのかと思っていたら、着物を着た女性が私たちをカップルだと勘違いしたのか店の奥の個室へと案内してくれた。
靴を脱いで掘りごたつになっている席へ座る。
「掘りごたつっていいよな。なんか落ち着くな」
おしぼりで手を拭きながら掘りごたつの下を覗いてみたり、個室の中をきょろきょろと見渡す松永部長。
「そ、そうですね。掘りごたつの席があるなんて知らなかったです」
「ここにはよく来るのか?」
「たまに。休みの日に美味しいお蕎麦を食べたくなったときに来るんですけど、お昼って定食だけなんですよね。この夜のメニューの出汁巻き玉子がどうしても食べてみたくて。お蕎麦屋さんの出汁巻き玉子って美味しそうじゃないですか。だけど夜にひとりでここにはなかなか来れないし入りづらくて」
「なるほど。じゃあ、しっかり出汁巻き玉子を堪能するといい。あそこで夜ごはん食べ損ねたんだろ」
松永部長が意味深な顔をして私に視線を向ける。
その視線に先ほどのカフェでの出来事を思い出し、視線を泳がせてしまう。
「そんな顔すんな。俺のせいで悪かったな。他に好きなものがあったら遠慮せず頼めよ」
ニコリと笑った部長がテーブルの上に置いてあったメニューを開いて私に見せてくれた。
元気のなさそうな部長が心配でごはんに誘ったのに、逆に気を遣ってもらってるじゃん。
もう、私は何してるんだろう。