すべてが始まる夜に
「きっかけはよくわからないんだけど……」

「茉里さん、それはここ最近の話ですか? 例えば……先週、とか?」

「そう、先週というか最近の話……」

「じゃあ、目が合ってもすぐに逸らすって、その人は態度も冷たくなったんですか?」

「ううん、そんなことはないと思う」

部長は私とは目を合わせてくれなかったけれど、謝ってくれたときも、うちから帰るときも、ちゃんと微笑んでくれた。そんなことないと信じたいけれど、もしかしたら大人の対応でそうしてくれていたのかもしれない。

やっぱり嫌われちゃったかな──と呟くと、それは違うと思います、と若菜ちゃんが大きく首を振った。

「多分その人、茉里さんのことが好きだと思いますよ。何か意識するようなきっかけがあって、だから目を合わせてくれなくなったんじゃないですか?」

「好き? 違う違う、そんなの絶対にない。絶対にないから」

つい大きな声を発してしまい、若菜ちゃんが「茉里さん、しぃー」と口元に人差し指を立てる。
慌てて口元を手で覆いながら、ごめん──と顔を歪めた。
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