すべてが始まる夜に
一緒に福岡へ
若菜ちゃんの言った通り、出張から帰ってきた部長は目を合わせてくれないということはなく、朝、出社して挨拶をすると、普通に目を合わせて「おはよう」と挨拶をしてくれた。大人の対応なのかは分からないけれど、次の日もその次の日も急に目を逸らされるということは感じられなかった。
部長と一緒に出張に行った吉村くんは、部長の営業力の凄さや新店舗予定地に関する視点の鋭さにとても感心したようで、すっかり松永部長のことを心酔してしまったようだった。
「白石も松永部長と一緒に出張に行ったら絶対に勉強になると思う。あの人はほんとに凄い」
目を輝かせて部長との出張の話を聞かせてくれる吉村くんに、気が重かった私も少しだけ出張に行くのが楽しみになってきた。
そしてあっという間に金曜日になり、福岡出張へ行く日の朝がやってきた。
部長から昨日の夕方に、「明日は6時にタクシーで出発します」とのメールがあったので5時に目覚ましをかけていたけれど、目覚ましよりもかなり早く目が覚めてしまった。私は二度寝して寝坊しないようにベッドから起きて準備を始めた。
メイクをして、スーツに着替え、昨日のうちに準備しておいた機内に持ち込める小さなスーツケースに必要なものを入れていく。全て準備を終えて時計を見ると、時刻は5時50分になっていた。
「そろそろ下に降りておこっかな。部長を待たせちゃ悪いもんね」
部屋の電気を消し、スーツケースを持ってドアの鍵を閉め、エレベーターで下に降りる。エントランスの外を覗くと、既に部長がスーツケースを横に置き、スマホを見ながら立っていた。
「うそっ。もう部長下りて来てるの? 私の方が早いと思ったのに」
急いでエントランスのドアを開け、おはようございます──と後ろから声をかける。
振り返った部長は私の顔を見ると、おはよう、と小さく微笑んでくれた。
「すみません、お待たせしてしまいまして……。それと、一緒にタクシーに乗せていただいてありがとうございます」
「俺が早かっただけだよ。準備が出来たのに家で待ってるのがどうも落ち着かなくてな。それにタクシーは同じところから出発なんだから当然だろ?」
苦笑いのような表情を浮かべる部長に、ありがとうございます──と頭を下げていると、タクシーが1台、私たちの目の前に停まった。後部座席のドアが自動的に開く。
「すみません、トランク開けてもらえますか?」
部長は開いたドアから運転手さんにそう告げると、「白石、先に乗って」と言って、私の手からスーツケースを取った。
部長と一緒に出張に行った吉村くんは、部長の営業力の凄さや新店舗予定地に関する視点の鋭さにとても感心したようで、すっかり松永部長のことを心酔してしまったようだった。
「白石も松永部長と一緒に出張に行ったら絶対に勉強になると思う。あの人はほんとに凄い」
目を輝かせて部長との出張の話を聞かせてくれる吉村くんに、気が重かった私も少しだけ出張に行くのが楽しみになってきた。
そしてあっという間に金曜日になり、福岡出張へ行く日の朝がやってきた。
部長から昨日の夕方に、「明日は6時にタクシーで出発します」とのメールがあったので5時に目覚ましをかけていたけれど、目覚ましよりもかなり早く目が覚めてしまった。私は二度寝して寝坊しないようにベッドから起きて準備を始めた。
メイクをして、スーツに着替え、昨日のうちに準備しておいた機内に持ち込める小さなスーツケースに必要なものを入れていく。全て準備を終えて時計を見ると、時刻は5時50分になっていた。
「そろそろ下に降りておこっかな。部長を待たせちゃ悪いもんね」
部屋の電気を消し、スーツケースを持ってドアの鍵を閉め、エレベーターで下に降りる。エントランスの外を覗くと、既に部長がスーツケースを横に置き、スマホを見ながら立っていた。
「うそっ。もう部長下りて来てるの? 私の方が早いと思ったのに」
急いでエントランスのドアを開け、おはようございます──と後ろから声をかける。
振り返った部長は私の顔を見ると、おはよう、と小さく微笑んでくれた。
「すみません、お待たせしてしまいまして……。それと、一緒にタクシーに乗せていただいてありがとうございます」
「俺が早かっただけだよ。準備が出来たのに家で待ってるのがどうも落ち着かなくてな。それにタクシーは同じところから出発なんだから当然だろ?」
苦笑いのような表情を浮かべる部長に、ありがとうございます──と頭を下げていると、タクシーが1台、私たちの目の前に停まった。後部座席のドアが自動的に開く。
「すみません、トランク開けてもらえますか?」
部長は開いたドアから運転手さんにそう告げると、「白石、先に乗って」と言って、私の手からスーツケースを取った。