すべてが始まる夜に
モヤモヤする気持ちって……
10階で部長と別れ、12階の自分の部屋の中に入ると、シングルにしては広めの部屋が目の前に広がっていた。

「わっ、シングルなのに結構広いじゃん。それにベッドもセミダブルだし。部長、こんなにいいお部屋予約してくれてたんだ……」

部長にかなりお金を出させてしまったのではないかと心配になりつつ、スーツケースを部屋の隅に置き、ベッドの上に腰掛ける。
そして両手を上にあげて力いっぱい腕を伸ばした。

「あー、疲れたぁ。今日は朝早かったもんなー。起きたのって確か5時前でしょ……」

朝からの自分の行動をひとつひとつ思い出しながら、今度は背中を伸ばし、首を回す。

「でも考えてみたら、朝起きて飛行機乗って如月さんのとこに行って、お話して、お昼ごはん食べて……って、今日の私、仕事っていう仕事ほとんどしてないんだよね。仕事してないのにこんなに身体が疲れてるって……。それにしてもあの如月さん、元気いっぱいのいい人だったなぁ。部長のこと信頼してるっていうか、本当に大好きっていうか……。常連さんたちがあの如月さんを慕ってギャラリーに通ってたのも分かる気がするよね。私もあんなカフェがあったら如月さんに会いに通いたくなったもん」

如月さんが話してくれた部長のエピソードを思い出し、思わずクスッと笑ってしまう。

部長の昔のお話が聞けて楽しかったな。
部長って新人の時から福岡だったんだ。
ここで優秀なのが認められてそれで本社に来たのかな?
そう言えば部長って出身も福岡? なのかな?
でも部長の言葉って標準語っぽいけど……。

あとでごはんの時にでも聞いてみよう──と思いながらベッドのサイドテーブルについてあるデジタル時計を見る。時間は16時前になっていた。

部長は確か17時半に下に降りてきてほしいと言っていた。ということは、あと1時間半ほど時間がある。

「部長もお部屋で仕事してるんだもんね。私もさっきの如月さんのギャラリーの写真とメモを見て、もう一度新しいカフェについて考えよう」

私は鞄の中からスマホとメモ、そしてノートとボールペンを取り出すとライティングデスクに座り、さっき撮った写真とメモを確認しながら、カフェの内容をもう一度練り直し始めた。
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