すべてが始まる夜に
「ある程度纏まってきたかな。あとは部長と少し相談してみよっと。そろそろ準備でもするかな」

ノートを閉じてスマホを待ち受け画面に戻し、再び大きく両手をあげて腕を伸ばす。新店舗カフェについてかなり集中して考えていたので、すっかり時間のことを忘れていた私は腕時計に視線を向けた。

「えっ? うそっ? 17時20分? もうこんな時間? 急がなきゃ!」

慌てて椅子から立ち上がりスマホを鞄の中に放り込む。
備えつけの姿見で自分の恰好を確認して、手櫛で髪を整えた。

「やだっ、口紅取れてるじゃん。お化粧お化粧!」

急いでメイクを直し、トイレを済ませて、鞄とルームキーを持って部屋を出ると、時刻はもう17時半になっていた。

「あー、部長が下で待ってる!」

エレベーターホールまで小走りで行き、降下ボタンを押す。チーンとエレベーターが到着して乗り込むと、連打するようにロビーフロアのボタンを押した。
1階に到着してロビーを見渡すと、部長がソファーに座ってスマホを見ていた。

「部長、すみません。お待たせしました」

急いでソファーの前に行き、頭を下げる。

「そんなに慌てて下りてこなくてもよかったのに。寝てたのか? 朝早かったもんな」

部長はクスクスと笑いながら立ち上がった。

「全然寝てません。カフェの内容をもう一度練り直していたら、こんな時間になってるとは全然気づかなくて……」

「カフェ? あのギャラリーの?」

「はい。そのことで部長にご相談したいことがあるんですけど」

「わかった。とりあえず先に屋台に向かおう。この時間だとタクシーより地下鉄で行った方が早いから、地下鉄で行くぞ」

部長がホテルのエントランスに向かって歩き始めたので、私も一緒にその後を着いて行く。ホテルは博多駅の目の前だったようで、私たちは博多駅から地下鉄に乗り、天神へと向かった。
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