すべてが始まる夜に
「あっ、熱っ。あ、あつひぃ……」

慌てて口元を手で押さえて隠しながら、口を開けて熱さを逃がす。

「いきなり全部口の中に入れるからだろ? 大根はちゃんと小さく切って口に入れていたのに」

部長が笑いながら、大丈夫か?とビールのグラスを私に渡してくれる。

「ふっ、ふみ、まへん……」

私はそれを受け取ると、ある程度玉子焼きを飲み込んだところで、残りをビールで流しこんだ。

「あー、熱かったぁ……。部長、熱いですから気をつけてくださいね」

お皿を部長の方に寄せながら、胸元を押さえる。

「ほんとにお前はしっかりしてるのかと思ったら……。熱いに決まってるだろ」

「私も最初は半分に割ろうかなって思ったんです。でもそしたら明太子が崩れちゃうから、それでひとくちで食べようと思って……。こんなに熱々だとは思わなかった」

部長がまだクスクスと笑っている。
その姿を見て、ほっとしている私がいた。

良かった。
部長が笑ってくれてる。

部長は「これも旨いぞ」と言って、綺麗に半分に割られたおでんと、牛すじ煮込み豆腐のお皿を私の目の前に置いてくれた。

ありがとうございます、と言って牛すじとお豆腐を口に入れる。甘じょっぱい味がしみこんだトロトロで柔らかい牛すじとお豆腐がこれまた美味しくて、白いごはんが欲しくなってくる。

美味しいです──と部長の方に顔を向けると、部長は先ほど来た2人組の女性から声をかけられているようだった。

「その玉子焼き美味しそうですね」
「ええ、美味しいですよ」
「じゃあ、私たちもそれを頼んじゃおっかな。あと何を食べられました? おすすめってあります?」
「何でも美味しいですよ。おでんも、この煮込みも」

部長が私が食べている牛すじの煮込み豆腐を指さした。
その瞬間、女性の人たちと目が合ったので、笑顔を作って会釈をする。だけどすぐに目は逸らされ、女性たちは部長に視線を向けた。
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