すべてが始まる夜に
部長は小皿にお醤油を入れたあと、私にそのお醤油を渡しながら視線を向けた。

「さっきの福岡のカフェ予定地の話だがそろそろ開発企画部から資料がもらえるだろ。俺もまだ場所がどこなのか詳しくは知らないんだ。資料をもらったら教えてくれないか。俺も少し気になっていたし、その資料を見て少し考えよう」

わかりましたと返事をして2人でお刺身を食べていると、出汁巻き玉子と銀鱈の西京焼きが運ばれてきた。

「白石、お待ちかねのものが来たぞ。温かいうちに食べろ」

ありがとうございますと小さく頭を下げてさっそく出汁巻き玉子を一切れ自分の取り皿に移す。そして、いただきますと手を合わせると、それを箸で掴んで口の中に入れた。

「うわぁ、やっぱりこの出汁巻き玉子美味しい。思ってた通りだ。あー、ここに来てよかったぁ」

「ほんとだな。さすが蕎麦屋だけあって出汁がよくきいてる。これは旨い」

部長も出汁巻き玉子が気に入ったようだ。
家で作ると固くなってしまうのに、どうしてこんなにゆるふわで美味しいんだろう。
出汁のバランスが絶妙だ。
出来立てのゆるふわ熱々ということもあって、あっという間にお皿の上の出汁巻き玉子が無くなってしまった。

「悪い。白石が食べたいって言ってたのに、旨すぎて俺が半分以上食べてしまったな。追加でもう一皿頼むか」

「せっかくなのでもう少し食べたいですけど、そしたら締めのお蕎麦が食べれるかな。ここのお蕎麦も食べたいし」

「このくらいなら全然食えるだろ。もう一皿頼むぞ」

部長はよほど気に入ったのか、女将さんを呼んで出汁巻き玉子の追加と一緒に残り少なくなった自分の生ビールも頼んでいた。
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