すべてが始まる夜に
やっぱり出張で疲れていたのか日曜日はいつもよりもかなり朝寝坊をしてしまい、起きたのはほぼお昼に近い時間だった。インスタントのドリップコーヒーをぽとぽととマグカップに落としながら福岡空港で買ってきたクロワッサンをトースターで温め、それを食べながら私は早速ギャラリーの企画を練り直し始めた。

翌月曜日も葉子と若菜ちゃんからの質問攻撃をお土産を渡すことでなんとかかわしながら、自分が納得できる企画を作ろうと、とにかく集中して仕事に励んだ。

部長と約束した水曜日の夕方にはなんとか企画案を纏めることはできたけれど、まだどうしても自分の中で完全に納得できたわけじゃなく、何か他にいいアイデアはないだろうかと考え続けていた。

そして木曜日になり、部長との打ち合わせの時間がやってきた。出張から帰って以来、部長は会議や他の打ち合わせなどと忙しく、月曜日からほとんど話していない。こうしてゆっくりと話すのは土曜日以来だ。

「白石、企画はできたか?」

「はい。ある程度纏めて作ったのですが、どうしてもフードが引っかかっていて……」

「フード?」

「そうなんですけど……。ですがまず外観から説明させてください。外観ですがあのギャラリーをそのまま生かすということで、お洒落感と重厚感を出したいと考えました。店名はウッドのフレームで作成して、木の温もりと言いますか、外から見て温かみのあるカフェにしたいと思います。ただウッドを全てに使ってしまうとあのギャラリーが生かされないので、あくまでも重厚感を出すためにポイント的に使用します。カフェ ラルジュだけど、カフェ ラルジュっぽくない、このカフェってあのラルジュ? って思われるようなフレームをイメージしてます」

部長はふむふむと頷きながら、私が作成した資料に目を通している。

「続いて内装ですが、カフェスペースにあった既存のテーブルや椅子はとても素敵でしたのでそのまま使用したいと思います。新しく揃えるより、今あるテーブルや椅子を生かした方が空間も居心地よく使えそうな気がします。ギャラリースペースの方だけ、新しくテーブルと椅子を補充する予定です。それと照明に関しですが、今のままだと少々無機質な感じがするので、ウッド系の間接照明を使用したいと思います。新しいテーブルと間接照明をいくつかピックアップしましたので、ご確認いただけますでしょうか」

「わかった。新しいテーブルと照明はあとで確認しておく。ところでカウンター席はどうするんだ?」

「カウンター席は排除します。やはりカウンターはドリンクの受け渡しや支払いをする場所として使用しますので、あのカウンター席を残してしまうと導線の確保が難しいです。もったいない気もするのですが……」

「なるほどな。言いたいことはわかった。で、フードは何が引っかかっているんだ?」

部長が資料から視線を外し、私に顔を向ける。

「部長と一緒に2軒ほどカフェに行ってみて感じたことなのですが、客層はほぼ地元の方で、それもカップルやご夫婦、女性同士で来られている方がほとんどでした。そして注文されているのがそのカフェの一番人気なものということで、味はもちろん美味しかったですが、見た目もとても美味しそうに見えるものばかりでした」

「そうだったな。あのタマゴサンドは旨かったし、ビジュアルも具のタマゴがたっぷりですごかったよな。それにパンケーキは丸くて綺麗な焼き色だったし、アップルパイもアイスが2個も乗っていて旨かったよな」

部長が腕を組み、微笑みながら頷いた。
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