すべてが始まる夜に
「それって、お前が俺にお願いしてきたことはどういうことかわかってるのか?」

「わかってます。ちゃんとわかってお願いしてます」

「そういう関係って世間ではどう言うか知ってるのか? セフレだぞ、セフレ」

「セフレ?」

「ああ、そうだ。セフレ、身体だけの関係のセックスフレンドだ。それと同じことなんだぞ」

セフレって……。
言葉だけ聞いたらなんかとってもいかがわしくて悪いことをしているような気持ちになるけれど、続きを教えてもらえるのなら今はそれでも構わない。

「それでも構いません。だから教えてもらえませんか?」

「お前なあ……」

「やっぱり私には魅力がないってことですか? セフレにも値しないってことですか?」

「そういうこと言ってるんじゃないだろ」

「さっきも言いましたけど、部長に教えてもらえるなら私、自信が持てる気がするんです。次に進めるような気がするんです」

部長は厳しい顔をして大きな溜息をついた。
部長にこんな顔をさせてしまうほど、私には魅力がないのだろうか。
つくづく自分に自信がなくなってきた。

「ほんとに後悔しないのか?」

「えっ?」

「お前の初めての相手が俺で、本当に後悔しないのか?」

「はい、後悔しません」

「この先、好きな人ができて、この人のためにとっておけば良かったと思っても遅いんだぞ」

「わかってます、大丈夫です。それに……このことは絶対に誰にも言いません」

部長が私に向けていた視線を斜め下に落とした。
そのまま何かを考えるように無言になる。
様子を窺うようにチラチラと視線を向けても、話してくれそうな気配もない。
じっと黙り込んだままだ。

部長、と声をかけようとしたとき、わかった──と、部長が静かに呟いた。

わ、わかったって、教えてくれるってこと?
私のお願いを聞いてくれるの?
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