すべてが始まる夜に
「部長、もうひとつ聞いていいですか?」
「ああ、いいよ。今日は何でも聞いてやる。また恋愛の話か?」
「はい……。あの、男の人は処女だと面倒なんですか?」
「はっ?」

部長は口に入れていたビールを噴き出しそうになりながら、慌てておしぼりで口元を押さえた。

「お、お前、急に何を言い出すんだよ」
「だって部長何でも聞いてくれって言われたじゃないですか」
「そ、そうは言ったが、こんなこと聞かれるとは思わないだろ」

まったくお前は急に何を言い出すのかと思ったら──と言いながら、部長は苦笑いを浮かべた。

「マニュアル本にそう書いてあったのか知らないが、それも人それぞれだ。自分の好きな女だったら初めての方が嬉しいだろうし、逆に経験がない女を抱いたら結婚を迫られそうで嫌だと思うヤツもいるだろうし。一概には言えないよ」

「そうですか……」

好きな女性だったら初めての方が嬉しくて、逆に経験がない女性は結婚を迫られそうで嫌か……。
このまま何も経験がないまま私も30代を迎えるのかな。
そしたらこれから誰かと付き合ったとしても処女だって分かった瞬間、結婚を迫られそうで嫌だって思われちゃうのかな。
何で私、今まで経験してこなかったんだろう。
チャンスはあったはずなのに……。

「部長、部長はどうして結婚しないんですか?」

なんとなく気になり、ふと聞いてみる。
さっきの彼女だって、モデルのように背が高くてすごく綺麗な女性だった。
イケメンと美女でお似合いのカップルだったのに。
なのに結婚しないってどういうことなんだろう。
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