すべてが始まる夜に
「どうしたんだ、急に?」

「さっき、結婚はまだするつもりはないって言われてたから。すごく綺麗な彼女さんでしたよね」

「結婚か……。俺は自分の中で家庭を持っても大丈夫だと納得できるまでは結婚はしたくないんだ。それに4月にこっちに来ただろ。新しい部署でまだ慣れてないし、今はまだ仕事に集中したいってとこかな。古い考えかもしれないが、結婚したら嫁さんには家庭に入ってほしいんだ。そうするにはもう少し俺が一人前になってからじゃないと家庭は作れないだろ」

「へぇー、結構亭主関白なんですね」

「亭主関白というか、男は仕事をして家族を養うっていう親父に育ったからかな。今時考えが古いよな。自分でもよくわかってるよ」

「古い考えだとは全然思わないです。そんな風に責任持って家族を養うなんてかっこいいと思います。でも部長くらいイケメンなら女性を取っ替え引っ替えしてそうなのに、人は見かけによらないんですね。意外でした」

「イメージなんて人が作り上げるものだろ。問題は中身だ。まあ俺は今時古臭い考えだし、セックスが下手みたいだから中身もダメみたいだけどな」

はははっと自嘲気味に笑いながらビールを口に入れる。

部長、笑ってるけれど彼女に言われたことやっぱり気にしてるんだ。
さっきから自虐的にちょくちょく言ってるもんね。
これってかなり気にしてて、相当傷ついてるってことだよね。

私はジョッキの中に残っていたビールを全て飲み干すと、呼吸を整えるように大きく息を吐いた。
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