すべてが始まる夜に
リフレッシュルームに行くと、珍しく吉村くんがソファーに座ってコーヒーを飲んでいた。

ここは社員がお弁当を食べたり、休憩したりできるよう10人くらいが座れるコの字型のソファー席になっていて、無料のラルジュのコーヒーや、給茶機、そして自動販売機などが置いてある。

「珍しいね、吉村くんがこんなところで休憩なんて」

だいたいいつも机に座って真面目に仕事をしているか、もしくは自分の案件の打ち合わせをしているかのどちらかで、こんな風に休憩する姿なんて滅多に見かけないのに、今日は考えごとでもあるのかリフレッシュルームで休憩している。

「どうしたの? 今抱えている案件で何かあった?」

「いや、ちょっと集中できなくてな……」

「そうなんだ……。吉村くんが集中できないって珍しいよね。私でよければ話を聞くよ。いつも私ばかり話を聞いてもらってるでしょ」

そう笑顔は向けてみたものの話しづらいのか、「ああ、うーん」と言葉を濁したままだ。

「会社じゃ話しづらかったら、葉子誘って3人で飲みにでも行く?」

「そうだな……。っていうか、白石はどうしたんだ? 白石も休憩しにきたのか?」

逆に質問を返され、暑かったのでお茶を買いに来たと答えて、私は自動販売機でお茶を購入した。
出てきたペットボトルと給茶機の横に置いてある紙コップを持って、吉村くんの対角に座る。
キャップを捻り、紙コップにお茶を注いだ。

「あー、冷たくて美味しい。生き返るー」

部長の前で緊張して身体が熱くなっていたせいか、冷たいお茶が染み渡っていく。
そんな私の姿を見て、吉村くんがクスッと笑った。

「今、私見て笑ったでしょ? 何で笑ったの?」

冗談っぽく睨みつけるように、じろっと視線を向けてみる。

「いや、若いヤツがお茶飲んで “生き返るー” なんて言うか? それってなんかおっさんみたいじゃないか」

少し元気が出てきたのか、吉村くんの表情に先ほどよりも笑顔が戻ってきた。
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