すべてが始まる夜に
寝室に行き、部長が優しい顔をして微笑む。

「まだ、怖いか?」

「はい……。怖いし、あと、恥ずかしい、です……」

「そっか……。じゃあさ、最初は服だけ脱いで、少しベッドの中に入って話をするか?」

「ふっ、服を、服を……脱ぐんですか?」

「服を着たままベッドの中に入ったら、皺になってしまうだろ?」

そう言いながら私から身体を離し、部長はスウェットの上着のジッパーを下ろし始めた。

「ま、ま、待ってください。あ、あの、私が、私が先に脱いでもいいですか?」

ジッパーを下ろしている手を思わず掴み、急いで止める。部長に先に服を脱がれてベッドの中に入られてしまったら、私が服を脱ぐ姿をじっと見られてしまう。
そんなのは絶対に嫌だ。

「私が先に脱いでベッドの中に入るから……、だから、このまま目を瞑ってて、お願い……」

私の必死な形相に部長はクスッと笑うと、わかったよ──と言って素直に目を瞑ってくれた。

私は立ち上がってそのままベッドの反対側に移動すると、セーターとスカートを脱ぎ、掛け布団を捲ってそっとベッドの中に入っていった。
ドクドクと動く心音を感じながら、顔を隠すように目元の下まで掛け布団を持ってくる。
ベッドの中はいつもの部長の爽やかな香水の匂いがして、途端に腰の奥がゾクッと震えた。

「もういいか?」

部長が私に背を向けてベッドに腰掛けたまま尋ねる。

「だ、大丈夫です。すみません」

私の返事に部長は目を開けると、躊躇することなく、さっとスウェットを脱いでベッドの中に入ってきた。

そのまま部長に引き寄せられ、腕の中に包まれるように抱きしめられる。
こんな下着姿のまま抱きしめられるなんて恥ずかしくて仕方ないはずなのに、この肌の温もりがなぜかとても心地よくて、服の上からではあまりわからなかった部長の男性らしい身体つきがはっきりと伝わってきた。
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