すべてが始まる夜に
心地よい気怠さを感じながら、私はゆっくりと目を開けた。いつもの自分の部屋とはどこか違う部屋の様子に、ぼうっとしながら天井を見つめる。
そして段々と自分が今どこにいるのかを思い出し、ハッとして飛び起きた。

少し目を瞑っていた気がするけれど、あれからどのくらい時間が経ったのだろうか。
私はまだ裸のままで、隣にいたはずの部長の姿は見えなくて、カーテンの隙間から漏れてくる光はどういうわけか明るいような気がする。

今、何時?

部屋の中をきょろきょろと見渡し、サイドボードの上に置かれてある時計を見ると、時計の針は10時過ぎを示していた。
この部屋に来たのは8時頃だったはずだ。
まだ2時間しか経ってなかったんだ……。
随分時間が経ったような気がしていたけれど、まだ2時間しか経っていないことにほっとしながら、私はベッドの上に置いてあった自分の服に手を伸ばした。

すると、ガチャ──とドアが開き、スウェットではなくチャコールグレーのニットを着た部長が顔を覗かせた。

「あっ、茉里、起きたのか?」

慌てて掛け布団を引っ張り、胸を隠す。
私の慌てた様子に部長はクスッと笑うと、「シャワー浴びるか?」と尋ねてきた。

「大丈夫です。これから帰ってシャワーします」

「帰る? 帰るのか? 朝ごはんどうしようかと思ったんだが……、じゃあコーヒーだけでも飲むか?」

朝ごはん? コーヒー?
部長は明日の朝ごはんのことを言っているのだろうか。

「朝ごはんって……明日の朝ですか?」

「明日? いや、今日の朝ごはんだけど」

部長の言っている意味がよくわからない。
ぽかんと部長の顔を見ていると、部長が納得したような顔をして笑い出した。
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