すべてが始まる夜に
「すみません……。今日は……無しでもいいですか？」

「わかった。昨日は無理させたしな。今日はゆっくり身体を休めておいた方がいいかもな」

「ほんとにすみません……」

頭を下げて謝ると、「謝ることじゃないだろ」と、部長は優しく微笑みながら口元で弧を描いた。

「茉里、あの来週からなんだけどさ……、週末はここで過ごすか？」

突然の部長の提案に、えっ？ と思わず目を見開く。

「レッスンが終わっていちいち部屋に戻るのも面倒だろ？ 着替え持ってきてここで過ごしたらどうだ？」

「そ、それって……、ここにお泊りするってこと、ですか……？」

「ま、まあそういうことにもなるけど……、その方がいいだろ？ レッスンのためだけにまたここに来るっていうのもな……」

なんか言いづらそうに視線を彷徨わせている。

部長の言う通り、レッスンのためだけにここに来るということは、言い変えれば部長とセックスをするためだけにここに来るということだ。
おそらく部長はそういうことも考えて私に気遣ってくれているのだろう。

でもここに泊まるとなると、寝る場所はどうなるのだろう。部長と一緒に寝るわけにもいかないし、おそらく今日みたいに部長がソファーで寝るなんてことになったら申し訳ない。

「そしたら……、私はソファーで寝てもいいですか？」

「はっ？」

どういうわけか部長が驚いたようにきょとんとして私を見た。

「今日ってソファーで寝られた……んですよね？ 私がベッド使っちゃったから」

「あっ、いや、それは……」

「すみません。ソファーだとちゃんと疲れが取れてないですよね？ 私がベッド占領しちゃってほんとにすみませんでした。なので週末をここで過ごさせてもらうのなら、私はソファーで寝ますね」

確認の意味も含めてそう伝えたのに、部長は口を閉じたまま何も話してくれない。

「あの、部長……、悠、くん……？」

窺うように顔を覗き込むと、咳払いをした部長が「あのさ……」と口を開いた。
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