すべてが始まる夜に
「あの、ここまで連れて来てもらって今さら言うのも悪いんだけど……、彼女って大丈夫だった? いくら仕事とはいえ、私と一緒にここに来るの嫌がってたんじゃないかな?」
「はっ?」
「疑ったりされてない? 大丈夫かな? もし疑われたら、私ちゃんと謝って説明するから」
「あの白石……、お前の言ってる意味がよくわからないんだけど……」
吉村くんは本当に意味がわからないのか、目をぱちくりさせて狐につままれたような顔をしている。
「意味がわからないって……。だからね、吉村くんの彼女に申し訳ないって言ってるんだけど。彼女、怒ってないの? 会社の同僚で同期って言っても、こんなとこに女性と一緒に来るのって嫌がるんじゃない?」
「あ、あのさ……、もしかして俺に彼女がいるって思って話してるのか?」
「うん、そうだけど……」
「俺、彼女なんていないけど」
「えっ?」
吉村くんの言葉に、今度は私の方が驚く番だった。
どういうこと?
吉村くんって、彼女いないの?
確か葉子と若菜ちゃんがそんな話をしていたはずなのに……。
「誰がそんなこと言ったんだ?」
「あ、えっと、なんかそんな話を聞いた気がして……。だからてっきり吉村くんには彼女がいるのかとばかり思ってて……」
葉子や若菜ちゃんが言ってたなんてことは言えず、もごもごとしてしまう。
「いないよ。彼女なんているわけないだろ」
いつも穏やかな吉村くんが珍しく少し不機嫌そうな表情を見せた。
「ごっ、ごめんね。私の聞き間違いだったのかも。でも彼女がいないのなら安心した。それだけがずっと心配だったの。なんだ、彼女いないんだ。良かった……」
雰囲気が少し悪くなりかけたような気がして、急いで笑顔を作ってその場を取り繕う。
いったいどういうことなんだろう。
確かに特定の彼女がどうとか言ってたはずなのに……。
あれって聞き間違いだったのかな?
少し焦ってしまったことで、変な汗が出てきて身体が熱くなってきた。手で顔を仰ぎながら吉村くんに笑顔を向ける。
「ここって暖房がきいてるのかな? 安心したらなんか暑くなってきちゃった」
私は鞄の中からシュシュを取り出して、首元を涼しくさせようと髪の毛を結んだ。
「パンケーキまだかな? なかなか来ないね?」
話を逸らすようにお店の厨房の方を向きつつ、振り返ってもう一度笑顔を向ける。すると吉村くんは呆然とした顔で私を見つめていた。
「はっ?」
「疑ったりされてない? 大丈夫かな? もし疑われたら、私ちゃんと謝って説明するから」
「あの白石……、お前の言ってる意味がよくわからないんだけど……」
吉村くんは本当に意味がわからないのか、目をぱちくりさせて狐につままれたような顔をしている。
「意味がわからないって……。だからね、吉村くんの彼女に申し訳ないって言ってるんだけど。彼女、怒ってないの? 会社の同僚で同期って言っても、こんなとこに女性と一緒に来るのって嫌がるんじゃない?」
「あ、あのさ……、もしかして俺に彼女がいるって思って話してるのか?」
「うん、そうだけど……」
「俺、彼女なんていないけど」
「えっ?」
吉村くんの言葉に、今度は私の方が驚く番だった。
どういうこと?
吉村くんって、彼女いないの?
確か葉子と若菜ちゃんがそんな話をしていたはずなのに……。
「誰がそんなこと言ったんだ?」
「あ、えっと、なんかそんな話を聞いた気がして……。だからてっきり吉村くんには彼女がいるのかとばかり思ってて……」
葉子や若菜ちゃんが言ってたなんてことは言えず、もごもごとしてしまう。
「いないよ。彼女なんているわけないだろ」
いつも穏やかな吉村くんが珍しく少し不機嫌そうな表情を見せた。
「ごっ、ごめんね。私の聞き間違いだったのかも。でも彼女がいないのなら安心した。それだけがずっと心配だったの。なんだ、彼女いないんだ。良かった……」
雰囲気が少し悪くなりかけたような気がして、急いで笑顔を作ってその場を取り繕う。
いったいどういうことなんだろう。
確かに特定の彼女がどうとか言ってたはずなのに……。
あれって聞き間違いだったのかな?
少し焦ってしまったことで、変な汗が出てきて身体が熱くなってきた。手で顔を仰ぎながら吉村くんに笑顔を向ける。
「ここって暖房がきいてるのかな? 安心したらなんか暑くなってきちゃった」
私は鞄の中からシュシュを取り出して、首元を涼しくさせようと髪の毛を結んだ。
「パンケーキまだかな? なかなか来ないね?」
話を逸らすようにお店の厨房の方を向きつつ、振り返ってもう一度笑顔を向ける。すると吉村くんは呆然とした顔で私を見つめていた。