すべてが始まる夜に
「どっ、どうしたの?」

「白石……その、くっ……、く……び……」

「えっ? 何? 何かあった?」

「あっ、いや……ごめん、何でもない……。しっ、白石が……髪の毛結んだのって初めて見たような気がしたから……」

そんなに髪の毛を結んだ私が珍しいのか、まだ吉村くんは呆然として私を見ている。

「あっ、そっか。会社じゃいつも下ろしたままだもんね。お家だと結構結んでるよ。顔出してると変かな?」

「み、見慣れてないからか違う感じがする……。お、俺は……髪の毛結ぶのより下ろしてる方が似合ってると思う……。なんかその、見慣れないから……、今日は髪の毛下ろしておいてくれないか?」

「そんなに髪結んだら似合わないかな? なんかその反応って結構落ち込むんだけど……。わかった。じゃあ、やめとくよ」

せっかく結んだシュシュを外し、また鞄の中に入れる。

そんなに似合わないのかな?
あんな顔されると、なんだかへこんじゃうよね……。

吉村くんの反応に落ち込みつつ、「そんなに変かな?」ともう一度聞き直していると、お待たせしました──とパンケーキとハンバーガーとドリンクが運ばれてきた。

丸くて白い大きなお皿の上にふんわりとしたパンケーキが3枚重ねられ、たっぷりと添えられたフレッシュクリームがパンケーキの温かさでとろりと溶けだしている。そして彩るようにラズベリーやブルーベリー、バナナがトッピングされ、食べる前からテンションがあがってしまう。

「うわぁ、ねぇねぇ見てこのパンケーキ。ほんとに3段重ねになってる……。フルーツもフレッシュクリームもたっぷりで、もうすっごく美味しそう!」

「そんなに……、嬉しいか?」

「こんなの見たら嬉しいに決まってるじゃん、やっぱり見た目って大事だよね。ラルジュのフードもこんな風に “美味しそう!” ってなればいいんだけどな」

「………そう、だな」

どうしたのか吉村くんはさっきまでと違って口数が少なくなり、笑顔も消えてテンションが低くなっている。
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