すべてが始まる夜に
具材がたっぷりと挟まれ、分厚いパティとレタスにトマト、アボカドにチェダーチーズ、そして目玉焼きが入っているようだ。

「そのハンバーガーもすごいよね。挟まれてる具材が見えるだけで食欲がそそられるよね。それにこんな風に木製のプレートで提供されるってお洒落だと思わない? うちのローストビーフサンドもこんな木製のプレートで提供したらもっとお洒落に見えるかな?」

「そうだよな……。皿を変えるっていうのも……いいかもしれないな」

やっぱり吉村くんの反応はどこかおかしい。
いつもと違って歯切れが悪いというか、トーンが低いような気がする。
体調が良くないのかもう一度聞いてみようかと考えていると、目の前から白石──と私を呼ぶ声が聞こえた。

「んっ? なに?」

「あのさ……、白石ってもしかして……彼氏がいるのか?」

吉村くんがどこか言いづらそうに顔を向けてくる。

「えっ、私? いないけど、どうして?」

「いや、なんかそんな気がして……」

「彼氏なんていないよ。いたら吉村くんと2人でお休みの日にカフェなんか来ないし」

「そっか……」

「そうだよ。彼氏以外の男の人と2人で出かけるなんてことしたくないじゃん。心配かけたくないし、浮気してるって疑われるのも嫌だし」

「そう、だよな……」

私の言葉に安心したのか、吉村くんはやっといつもの笑顔を見せてくれた。

私も吉村くんに彼女がいると思ってたけど、どうやら吉村くんも私に彼氏がいると思っていたようだ。
元気がなかったのは、もし私に彼氏がいたら、こんな風に2人で出かけて自分が浮気相手だと疑われてしまったら困ると思ったのかもしれない。
理由がわかり、私も安心する。

「私に彼氏がいないことは葉子も若菜ちゃんも知ってるから、てっきり吉村くんも知ってるとばかり思ってた。吉村くんは知らなかったんだね」

「いや……、彼氏がいないとは聞いてたんだけど、もしかしたら最近できたのかなと思って……」

「いないよ、いない。どこを見て私に彼氏がいるって思うの? もうハンバーガー、冷めちゃったんじゃない? 早く食べよ」

そう言って笑顔を向けながらパンケーキを口に入れると、吉村くんも「そうだな」と微笑みながらハンバーガーにがぶっとかぶりついた。
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