すべてが始まる夜に
それからの私たちはラルジュのフードをどのように提供していこうかと話し合いながら、結局3時間近くもカフェで過ごした。

「吉村くん、奢ってもらってほんとにいいの? 私、自分の分、払うよ」

割り勘にしようと言ったのに、さっさと伝票を持って会計を済ませた吉村くんは、私がいくらお金を渡しても受け取ってくれなかった。

「いいって。今日は俺が誘ったんだし。じゃあ、次は白石がってことでどうだ?」

「次っていつ? そんなのわかんないじゃん」

「ほんとに今日はいいって。それよりこの後どうする? もう一軒カフェ巡りしてみるか? 恵比寿の方にもお洒落なカフェがあるみたいだけど」

時計を見ると午後1時過ぎだ。
ここから恵比寿まで歩いて行ってカフェに入ったとして……と考えると、夕方に家に帰るのはギリギリになりそうだ。部長に夕方には帰ると約束した手前、遅くなるのも躊躇われる。

明日は月曜日で仕事だし、早めに帰って部長に報告しておいた方がいいよね……。

「実はこのあと用事があって帰らなきゃいけないの。できることならもう一軒カフェ巡りしたいところなんだけど、今日は帰るね。ごめんね」

「そっか。じゃあまた次にするか」

「そうだね。ほんとにごめんね」

吉村くんに手を合わせて、ごめん──と謝りながら、一緒に目黒駅まで歩いて行く。天気が良くて気温が高いせいか、歩いていると少し汗ばんでくる。
鞄からハンカチを取り出して汗を拭きながら歩いていると、可愛いケーキ屋さんが目に入ってきた。

「あっ、ケーキ屋さんだ。ちょっと入ってみてもいい?」

「いいけど、さっきパンケーキ食べたのに、今度はケーキか?」

「ケーキ屋さんってわくわくするじゃん。美味しそうなケーキがあったら食べてみたいし」

お店のドアを開けて入ると、「いらっしゃいませ」と店員さんが笑顔で迎えてくれた。
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