すべてが始まる夜に
目黒駅に着いて、吉村くんに「じゃあまた明日ね」と手を振り、電車に乗って上野まで帰る。
電車の中は行きと違って結構人が多く、私はケーキの箱が潰れないように気をつけながら、カフェで吉村くんと話したラルジュのフードについて考えていた。

今日のカフェでは、吉村くんが食べていたハンバーガーは木製のプレートで提供されていた。
あれだけでかなり美味しそうに見えたし、何よりお洒落だった。

ラルジュでフードを提供しているのは、何の変哲もない丸くて白いお皿だ。木製のプレートの上に一番人気のローストビーフサンドを置いてみたら、もっと美味しそうに見えるかもしれない。やってみる価値はありそうだ。

そしてもうひとつ、ラルジュで二番目に人気のフレンチトーストも何かいいアイデアはないだろうか。
現在お店では形が崩れないようにと、四角い紙の容器に入れられたフレンチトーストを注文が入ってから温め、それを白いお皿の上に紙の容器ごと置いて提供している。

だけど、もっと美味しそうに、できればカフェランチとして写真が撮りたくなるようなお皿で提供できれば、もっと人気が出るかもしれない。
プリンは部長が教えてくれたようにお皿に移して提供することにして……。

東京駅でかなりの人が降り、目の前の座席が空いたので、私はそこに座った。
鞄からスマホを出してメッセージアプリを開く。
部長に『もうすぐ帰ります』とメッセージを送ると、すぐに返信が戻ってきた。

『家に戻る前にここに寄ってくれるか?』

そのメッセージを見て、手に持っていたケーキの箱に視線を移す。

お蕎麦のプリンを買ってみたけれど、部長は美味しいって食べてくれるだろうか。
喜んでくれるといいな、と思いながら自然と笑顔になってしまう。

上野駅に到着して改札を出た私は、部長が喜んでくれる顔を思い浮かべながら、足取り軽くマンションに向かって歩いていった。
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