すべてが始まる夜に
「悠くんは、どれがいい?」

「俺? そうだな……。じゃあ、茉里と俺で全部はんぶんこにするか?」

「えっ?」

「何を嬉しそうな顔してるんだよ。全部食べてみたいんだろ?」

どうして部長は私が考えていることがわかるんだろう。
そんなことひとことも言ってないのに。

キッチンからナイフを持ってきた部長は、いちごのレアチーズケーキとピスタチオのムースを半分に切った。

「プリンは半分に切れないからこのままな。俺が口つけたのが嫌だったら、茉里が最初に好きなだけ食べていいぞ」

「ううん。嫌じゃないから大丈夫」

「そうか? じゃあ先に蕎麦のプリンを食べてもいいか?」

部長は嬉しそうにお蕎麦のプリンを手に取ると、いただきます──と言ってスプーンで掬ったプリンを口に入れた。

「んっ? これはもっちりしたプリンだな。プリン自体はそこまで甘くないけど、上にかかってる黒蜜とくるみの食感がいい感じだ。これ、旨いな」

「ほんと? 美味しい?」

「ああ、蕎麦の味っていうより、蕎麦の香りが鼻から抜けていくような “和” のプリンだ。本来のプリンとはちょっと違うけど、旨い」

美味しいと食べてくれたことにほっとして自然と笑顔になる。
部長は気に入ったのか、もうひと口スプーンで掬って口に運び、私はそんな部長を見つめながらピスタチオのムースにフォークを入れた。

「このピスタチオのムースも美味しい! ピスタチオの味が濃くて甘くて、コーヒーにすごく合う」

濃厚なピスタチオのムースの中に甘酸っぱいフランボワーズのムースもあり、一緒に食べると甘味と酸味のバランスがちょうどよいケーキだ。

「ほんとか? この蕎麦のプリン美味しいぞ。茉里も食べてみて」

はい、とお蕎麦のプリンを渡され、それを受け取る。
そしてスプーンでプリンを掬おうとして、私はその手を止めた。
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