すべてが始まる夜に
月曜日、会社に出社すると吉村くんが待っていたかのように笑顔で声をかけてきた。

「白石、昨日はありがとな。それと、ケーキとプリン美味かったよ。マンゴープリンってあんなに美味しいんだな」

感想を教えてと言っていたからか、どうやら吉村くんはマンゴープリンが気に入ったようだ。

それにしても吉村くんにはやっぱり私服よりこのスーツ姿の方がしっくりくる。
私は机の上に鞄をおろしながら、一度部長の席へと視線を向けて姿を確認した。
昨日までの甘い顔ではなく、真剣な表情をして資料を確認しながらパソコンを打っている。
今日はネイビーのお洒落な光沢のあるネクタイで、少しずつ違うブルーがストライプになっているタイプのようだ。

このネクタイもかっこよくて好きだけど、部長には淡いピンク系のネクタイも似合いそうな気がするな。
レッスンが終わったら最後にお礼としてプレゼントしようかな。

そんなことを考えていると、部長がふと顔をあげた。
慌てて椅子に座り、吉村くんに笑顔を向ける。

「ほんと? 美味しかった? なら良かった。あんな美味しいもの食べないなんて人生損してるよ。これからはもっと食べてね」

「そうだな。ひとりだとケーキなんて買って食べようとは思わなかったけど、たまにはいいもんだな」

ほんとに気に入ってくれたのか、昨日のカフェで甘いものには興味がないと言っていた吉村くんとは随分と違う。

「白石も買ってたケーキ食べたのか?」

「うん。マンゴープリンも美味しかったし、他のも全部美味しかったよ」

「えっ、お前4個買ってなかったか? 4個ひとりで食べたのか?」

「違う違う、はんぶんこしてね。いくら私でも4つは全部食べれないよ。それより昨日のカフェで少しヒントもらったから、今日はそれを纏めなきゃね」

再び笑顔を向けると、吉村くんはどうしたのか急にテンションが下がった感じで「そうだな」と呟き、視線をパソコンに向けてキーボードを打ち始めた。
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