すべてが始まる夜に
もう6時だったんだ。
確か下のお風呂は6時からだったはず……。

部長が起きてしまうと、また露天風呂に入ろうなんて誘われて下のお風呂に入れない可能性もある。

部長が寝ている間にこっそり入ってこようかな。
その前に、まずは先に下着と浴衣を着なきゃ。
こんな裸のままでいたら、部長が起きたときに見られちゃう。

私は浴衣と下着を手に取ると、そっとパウダールームのドアを開けて中に入った。
急いで下着と浴衣を身に着け、小さく息を吐く。

あっ、そうだ。私、歯磨きしてない……。

昨日結局歯磨きもしないまま、私は寝てしまった。
アメニティが置いてあるところに目を向けると、使われた歯ブラシがコップの中に入っていた。

「うそっ……。悠くん、ちゃんと歯磨きしてる……」

私が眠ったあと、部長はきちんと歯磨きをして寝たみたいだ。
自分の情けなさに溜息が出てくる。
私は歯ブラシを手に取ると、歯を磨き始めた。

目の前に映る鏡を見ながら手を動かしていると、少しずつ浴衣がはだけてきて、それを直そうとひっぱったところで首筋にある赤い痕に気づいた。

んっ? なんだろ、これ?

もっとよく見えるように浴衣を動かした瞬間、前に部長につけられたあの赤い痕のことを思い出した。

えっ? もしかして……きっ、キスマーク?

急いで口をゆすいで浴衣の帯を解き、胸元を広げてみる。そこには驚くくらいの赤い痕がいくつもついていた。
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