すべてが始まる夜に
「そんな茉里と偶然あのカフェで出逢っただろ？ 俺はな、茉里と正式に付き合ったのは昨日かもしれないけど、俺たちの始まりはあのカフェで偶然出逢ったあの夜からだと思ってるんだ」

「あの、夜……」

「ああ、一緒に蕎麦屋に行ったあの夜だ。茉里が俺にとんでもない発言してきただろ？ 今考えると、あの発言がきっかけですべてが始まって、俺たちの距離が縮まったと思ってるよ」

部長とあのカフェで偶然出逢った日、私は彼女にあんなことを言われて落ち込んでいるように見えた部長に、気がついたら “一緒に夜ごはん食べて帰りませんか？” と声をかけていた。
そしてお酒のチカラもあって、恋愛がことごとく上手くいかない悩みを打ち明け、“私でセックスの練習をしませんか？” と提案してみたのだ。

その時は自分のことだけしか考えてなくて、とにかく必死だったけど、改めて思い返すと私は部長になんて失礼で恥ずかしい発言をしてしまったのだろう。

「あの日から俺たちはいろんな偶然が重なって、週末はずっと一緒に過ごしてきただろ？ 付き合ってはなかったけど、俺が体調を崩した時は茉里に助けてもらって、茉里の部屋で一緒にごはんを食べて、福岡に出張に行ったときは２人でカフェの偵察をして。段々とな、茉里と過ごす時間が俺には心地いい時間に変わっていったんだ」

それは私だって同じだ。
いろんな偶然が重なって、部長と一緒に週末を過ごすことになって、最初は緊張していたけれど、部長はいつも優しくて、どんな質問にも答えてくれて、わからないことは教えてくれて、いつの間にか部長と過ごす時間が私の中で楽しくなっていた。
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