すべてが始まる夜に
「それで先月からはレッスンしながら恋人同士のように過ごしたよな。茉里にとっては全てがレッスンだったかもしれないけど、俺の中では茉里と本当の恋人同士のつもりで過ごしていたんだ。この3ヶ月のレッスンで俺のことを好きになってもらおうとしてな」

部長は柔らかく目を細めて頬を緩めた。

それって……。
私だけがレッスンって思ってたってこと?

私は何でも知っている部長のことを尊敬していたし、すごく信頼していたから毎週レッスンをお願いした。
だから初めて触れられたときも、どんな私を見ても笑わず、優しく包み込んでくれる部長だったから、自分の恥ずかしい姿も全部見せることができた。

いつも “悠くん” と呼ぶと、優しい笑顔で振り向いてくれて、不安なときはちゃんと話を聞いて抱きしめてくれて──。

自分のことでいっぱいいっぱいだった私が、部長のことを好きだという気持ちに気づけたのも、部長が、悠くんが、私を焦あせらすことなく私の気持ちに寄り添ってくれて、私のスピードに合わせてくれたおかげだ。

正式に付き合ったのは昨日かもしれないけど、よく知らない人と一緒に暮らすのではない。
お互いがよくわかっている人と一緒に暮らすのだ。
こんなに早く決めても大丈夫なのだろうかと思っていた不安がいつの間にか消え去っていた。
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