すべてが始まる夜に
いつも通りの時間に会社に出社すると、部長は既に自分の席に座り、真剣な顔をしてパソコンと向き合っていた。その姿にかっこいいなと見惚れていると、不意に顔を上げた部長と目が合ってしまった。

一瞬、優しい瞳を向けてくれた部長に、うれしくて微笑み返してしまう。自然と笑顔になるのを必死で抑えながら、私は自分の席に座った。

実際に部長が私のプレゼントしたネクタイを着けて仕事をしている姿を見ると、うれしくて堪らない。
朝、お家でネクタイを着けてくれたのもうれしかったけど、会社に来てこんなに幸せな気持ちになるなんて思っていなかった。

そっと自分の首元に手を伸ばしてみる。
私の首にも昨日部長からプレゼントされたネックレスが着けられている。
残念ながら今日はタートルネックの服なので見えないけれど、部長がいつも私のそばにいてくれるようで、さらに幸せな気持ちに包まれながら私はパソコンの電源を入れた。

「白石、何かいいことでもあったのか? 朝から嬉しそうだな?」

目の前の席に座っている吉村くんが声をかけてきた。

吉村くんはどうしていつも私のことがわかるんだろう。
隠しているつもりなのに、私ってそんなに顔に出やすいのかな?

「うん、ちょっとね。そう、いいこと、かな?」

秘密を公表しているようで恥ずかしいけれど、初めて他人に自分の気持ちを伝えることでやっぱりうれしさが込み上げてきて顔が笑顔になってくる。

「えっ? ほんとに?」

なぜか聞いてきた吉村くんが、信じられないというような顔をして驚いていた。
どうしてそんな反応をするのか戸惑っていると、おはようございます──と元気よく若菜ちゃんが出社してきた。
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