すべてが始まる夜に
「そうか、わかったって……。私が別れるって言ってるのよ。2年も付き合ったのよ。引き止めないわけ?」

はぁ?
お前が別れるって言ったんだろ。
何で別れるって言ったお前のことを俺が引き止めないといけないんだよ。

「普通は引き止めるものでしょ。悠樹は私と別れてもいいの? それで平気なわけ?」と捲し立てるように聞いてくる。

「結婚するつもりのない俺と付き合っていてもどうしようもないだろ? そしたら俺はお前のいう通り別れた方がいいと思うけど」

俺はこれ以上麗香がヒートアップしないように、落ち着いた口調で告げた。

もういいだろ。
俺たち別れるんじゃねぇのかよ。
いい加減、カフェのお客さんたちの視線も気になるし、そろそろこの話は終わりにしてほしい。

そう思っていると、「そんなに結婚を拒むなんて、もしかして私の他に誰か彼女でもいるわけ? 福岡でもここでも悠樹の家に行かせてくれなかったじゃない。もしかしてほんとは結婚してるとか? 私を騙してたの?」と、こんどは俺が結婚してるとか、他に女がいるんじゃないかと言い出した。

どうして女ってこんなに面倒くさいんだろう。
何度も言うが、結婚しなくてもいいから付き合ってくれって言ったのはお前だぞ。

「そんな奴いねぇよ。俺のどこにそんな時間があるんだよ。俺の仕事が忙しいことは知ってるよな。だいたい結婚するつもりがないって言っているのに、どうしてお前を家に呼ばないといけないんだ? そんなことしたら期待するだろ。だから呼ばなかっただけだ」

いい加減俺も腹が立ってきつく言い返したら、「わかった。もういいわ」と、麗香が口にした。

やっと別れを受け入れてくれるってことか。
ほっとしながら小さく息を吐く。

これでやっと解放される──と思っていたのに、麗香は最後に大きな声でとんでもないことを言いやがった。
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