すべてが始まる夜に
「悠樹、最後にひとつだけあなたに忠告してあげる。悠樹のような下手なセックスしかしない男はね、女は誰も満足しないと思うわ。2年付き合ったけど今まで付き合った男の中で一番下手で気持ちよくなかったもの。顔がイケメンだけで自己中で下手なセックスしかしないなんて、これから付き合う女も可哀想ね。少しはセックスの技術でも磨いたら」

お、お前、ここをどこだと思ってるんだよ。
そんなことを公共の場で言うことか?
周りに客がたくさんいるだろうが。

ガタン──。

麗香が立ち上がった。
椅子を引いた音が大きかったのか、周りの客が反射的に俺たちに顔を向ける。

マジか。
勘弁してくれよ──。

そう思った瞬間、見たことのある顔が目に入った。
えっ? 白石?

俺の右斜め前に見える顔、あれは部下の白石だ。
何でお前がここにいるんだ?

白石も相当驚いた顔をしていて、俺と目が合った途端すぐに視線を逸らし、知らないふりをするように顔を前に戻した。

「ほんと最低ね。さよなら!」

麗香がそう言い放ち、カツカツとヒールの音を鳴らしながら店を出て行く。
残された俺はというと──、周りの好奇な視線がかなり痛い。

別れるにしても、もっと違う台詞を言えよ。
情けねえというかなんというか、普通こんな知らない奴らの前で自己中で下手なセックスだとか言うか?

俺も早くここから出よう。
そう思って立ち上がったのだけれど──。
俺の足はレジへとは向かわず、なぜか白石のテーブルの前に向かっていた。
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