すべてが始まる夜に
「待たせて悪かったな。行こうか」

テーブルの前に立つ俺の顔を見た白石が、俺を見つめたまま固まっている。
そりゃあそうなるよな。
だが悪い。頼む、今だけ助けてくれ。

「何してる? 早く行くぞ」

俺は白石のテーブルに置いてあった伝票を取り、そのままレジへ向かった。
俺の思いが通じたのか白石が俺の後ろを追いかけてくる。

支払いを済ませて店から出たあと、白石の前を歩きながら何て言い訳をしようかと考えていると、白石の方から声をかけてきた。

「あ、あの……、ま、松永部長……」

振り返るとなんとも言えない表情をして俺を見ている。
そうだよな。
俺のちっぽけなプライドから、全く関係のない白石を巻き込んでしまったんだもんな。

「わ、悪い。巻き込んで悪かった。あの状態で店から出るのは見せ物もいいところだろ。白石の顔が見えたらからつい利用させてもらったというか……。ほんとに悪かった」

俺は素直に謝った。
白石は俺を気遣ってくれたのか、「あ、いえ……」と言いながら首を横に振る。

そういえば俺は勝手に白石をカフェから連れ出したけど、もしかしてあのカフェに用事があったのだろうか?
今さら遅いが気になって聞いてみるとそうではないらしい。少しほっとしたと同時に、俺はもう一度白石に謝った。

「そうか、ほんとに巻き込んで悪かった」

「だ、大丈夫ですから。そ、それに今日のことは誰にも言いませんから安心してください」

どうやら俺は部下に余計な気まで遣わせてしまったようだ。
< 35 / 395 >

この作品をシェア

pagetop