すべてが始まる夜に
「茉里、まだ不安なんだろ? 茉里が心の中で不安に思ってることがあったら全部吐き出して。俺、何でも答えるから。俺はお前がひとりでいろいろ考えて、俺の予想をはるかに超えるような突拍子もないことを言われる方が怖いんだ。他に聞きたいことがまだあるだろ?」

「じゃあ……もしもう一度彼女に付き合ってって言われたらどうするの?」

「付き合うわけないだろ。俺は茉里が好きなんだ。まだ俺の気持ちが伝わってないのなら、家でも会社でも毎日言うぞ。茉里が好きだって。やっぱり会社でも伝えた方がみんなにもわかってもらえるし、周りの牽制にもなるし、その方がいいよな?」

部長なら冗談抜きで会社でも本当に言いそうだ。
慌てて首を大きく横に振る。

「そんなに嫌がることないだろ?」

「やっぱり会社だと恥ずかしいもん。それに葉子たちにもバレちゃったでしょ。月曜日に絶対聞かれちゃうし……」

「聞かれたら何でも正直に答えたらいいだろ。茉里が答えづらかったら俺が話してやるよ。何でも聞きに来いってあいつらに言っとけ」

そう言って口元で弧を描いて微笑む。
そんなことを葉子に言ったら、葉子は喜んで部長に聞きに行き、部長も事細かく葉子に話しそうだ。
それだけは絶対に避けないと、もっととんでもないことになる。

「ねぇ、悠くん……」

「んんっ?」

「あと……福岡の新店舗は、やっぱりまた彼女にお願いしてオープニングイベントをするの?」

福岡でラルジュをオープンさせるときはいつも彼女を使っていたのなら、今回の店舗でもきっと彼女を起用するはずだ。
そしたら私は彼女と顔を合わせないといけなくなる。
あんな綺麗な人を目の前にして、私はちゃんと仕事として彼女と話ができるだろうか……。
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