すべてが始まる夜に
「じゃあ……もしもう一度彼女に付き合ってって言われたらどうするの?」

「付き合うわけないだろ。俺は茉里が好きなんだ。まだ俺の気持ちが伝わってないのなら、家でも会社でも毎日言うぞ。茉里が好きだって。やっぱり会社でも伝えた方がみんなにもわかってもらえるし、周りの牽制にもなるし、その方がいいよな?」

そう言うと、茉里は大きく首を横に振った。

「そんなに嫌がることないだろ?」

「やっぱり会社だと恥ずかしいもん。それに葉子たちにもバレちゃったでしょ。月曜日に絶対聞かれちゃうし……」

「聞かれたら何でも正直に答えたらいいだろ。茉里が答えづらかったら俺が話してやるよ。何でも聞きに来いってあいつらに言っとけ」

茉里は困ったような顔をすると、「ねぇ、悠くん……」と俺の名前を呼んだ。

「福岡の新店舗は、やっぱりまた彼女にお願いしてオープニングイベントをするの?」

そうだ、それを言うのを忘れていた。
いくらあいつとはもう関係ないと伝えたところで、茉里にとっては不安材料のひとつだろう。

「もう二度とあいつを使うことはないよ。それに今回は別の方法でPRする予定だしな」

「別の方法?」

「ああ、SNSと広告を使ってPRしてみようと思ってるんだ。水島さんの奥さんが広告代理店で働いていてな、そこの会社のメインは不動産広告らしいんだが、そのツテで色々紹介してもらったんだ」

「そうなんだ……。でも悠くんが勝手に決めて大丈夫なの? 上の人たちが反対するかもしれないよ」

「許可は社長に取ってあるから大丈夫だよ」

当たり前のように答えたけれど、俺はもうひとつ茉里に伝えることがあるのをすっかり忘れていた。
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