すべてが始まる夜に
「悠くんは……社長になる人かもしれないんだよ。ほんとにわたしなんかでいいの?」

「いいに決まってるだろ? 悪い理由がどこにあるんだ? お前に気づいてもらうために、俺がどれだけ頑張ったか知ってるか? これだけ俺を好きにさせといて、今さらなかったことにするとかあり得ないだろ。そんなことは絶対に許さないからな」

本当にこれだけは誰にも譲れない。
ここまで好きだと思える女に出逢った以上、手放すなんて絶対に無理だ。

「悠くん、ありがとう……。好き以外の言葉が見つからないけど、わたし、悠くんが好き。大好き。悠くんと離れたくない」

本当に本当に嬉しい言葉だった。
熱海で好きだと告白してくれたときも嬉しかったけれど、さらにまた茉里との絆が深くなったような気がした。

「茉里、俺も大好きだよ。俺も一生茉里のそばにいたい」

抱きしめる腕の力が強くなる。
気持ちが満たされ、愛しさに溢れ、最高の気分だった。

なのに──。

「なあ、これから一緒に風呂に入ろっか?」

気分よくそう提案したのに、「えっ?」とあっけなく嫌な顔をされてしまった。

「なんだよ。いい雰囲気だったのに、ここであからさまにそんな嫌な顔するか? 落ち込むだろ?」

拗ねるように口を尖らすと、だって──と茉里は不満げな顔を向けてきた。

「悠くん、すぐ触るもん……」

当たり前だろ!
男が一緒に風呂に入ろうって言ったら100%触るつもりで入るのに、こいつは何をぬかしているのか。

「茉里、よく考えてみろ。一緒に風呂に入って、好きな女が裸で自分の目の前にいるっていうのに、触らない男の方がおかしいだろ?」

「悠くん、一緒に旅行に行ってから、エッチだよね?」

「はっ?」

「だって、どこでもするんだもん……」

「お前な……、俺を猿みたいに言うなよ……」

猿──?と首を傾けて見つめてきた茉里に、俺は我慢ができなくなってスカートの中に手を入れた。
一緒に風呂に入って抱こうかと思っていたけれど、風呂まで待てる余裕もない。
やっぱり俺は茉里の言う通り猿なのかもしれない──思いながら愛しい茉里を抱いたのだった。
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