すべてが始まる夜に
大切な人
月曜日、部長と付き合っていることがバレてしまってドキドキしながら会社に出社すると、いつも笑顔で「おはよう」と声をかけてくれる吉村くんは調子が悪いのか、心ここにあらずといった感じで、「白石、おはよう」と声をかけてくれたあと、ぼうっと何かを考えるようにパソコンから視線を外し、机に肘をついて考え込んでいた。

何を聞かれるかとドキドキしていたので、ほっとする反面、いつもとは違う吉村くんの様子が少し気になってしまう。
私は自分の席に座ると、パソコンの電源を入れながら、吉村くんに声をかけてみた。

「吉村くん、どうしたの? 珍しいね、何か考えごと?」

「あ、いや、別に……。大丈夫、なんでもない」

なんでもなさそうな感じじゃないけれど、深く聞くのもどうかと思い、メールチェックをしようとしたところで若菜ちゃんが出社してきた。

いつも元気に「おはようございます」とフロアに入ってくる若菜ちゃんだけど、若菜ちゃんもどういうわけか珍しく元気がない。
しかも、「茉里さん、おはようございます」と私にだけ挨拶したあと、吉村くんの方を見ようとはせず、すぐに椅子に座り、パソコンの電源を入れ始めた。

2人ともいったいどうしたんだろう……。
何かあったのかな?

「ねぇ、若菜ちゃんも吉村くんも、あれから何かあったの?」

そう聞いた途端、2人が『えっ──?』と驚いた声をあげて私の顔を見た。

「あ、あの……金曜日……、私が帰ったあと3人でどこかに行ったの?」

部長とのことを聞かれたら何て答えようかとドキドキしてしまう。
だけど2人ともが安心したような表情を私に向けた。
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