すべてが始まる夜に
「あっ、あのあとは、えっと葉子さんと3人で二次会に……」

「あ、ああ、さっ、3人で二次会に行っただけだ」

やっぱり2人ともいつもと様子がおかしい。
いつもの若菜ちゃんなら二次会であった出来事を楽しそうに話してくれるはずなのに、二次会に行ったというだけで何も話してくれないし、吉村くんも話を終わらせるようにパソコンの画面に顔を向けてしまった。

もしかして2人は、私が直属の上司と付き合ったということで、気分を悪くしてしまったのだろうか。
考えてみれば、同じ部署の上司と部下が付き合っているなんて、仕事をするうえで余計な気を遣ってしまうし、たとえ真面目な顔をして仕事の話をしていたとしても、そういう目で見てしまう。

そう推測すると、2人の様子がおかしいのは納得できるし、この2人だけでなく葉子も、私と部長のことを快く思っていないのかもしれない。
何を聞かれてしまうのか、聞かれたら何て答えようかとドキドキしていたけれど、私は自分のことしか考えていなかった。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

私は若菜ちゃんに「いろいろごめんね」とひとこと告げると、前を向いてパソコンのメールチェックを始めた。



*
「茉里、若菜ちゃん、ランチ行くよ!」

元気よく葉子が私たちのフロアにやって来たのは11時半になってすぐのことだった。

「葉子、今日は早くない?」

いつもなら11時半を過ぎて来るはずなのに、今日は11時半ぴったりだ。

「当たり前でしょ。今日は1分1秒でも惜しいの。早く社食に行くよ!」

葉子は私の腕を引っ張ると、有無も言わさず、社食に連れていった。

エレベーターを降りていつものようにメニューを見ながら、オムライスを注文する。
トレイを持って葉子が座っている端っこのテーブルに着くと、葉子はお気に入りのカツ丼、若菜ちゃんは珍しくきつね蕎麦を注文していた。
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