すべてが始まる夜に
「今日は若菜ちゃんはカツ丼にしなかったの?」

気になって聞いてみると、「今日はあんまり食欲がなくて……」と言って胃のあたりを擦っている。
やっぱり食欲がなくなるくらい、嫌な思いをさせているのだろうか。
小さく息を吐いていると、目の前から葉子の声が飛んできた。

「茉里、今日は茉里の話をじっくりと聞かせてもらうわよ。もう、今日のこのランチの時間を私はどれだけ待っていたか」

「私の話って……?」

「決まってるでしょ、掃除機ゆうくんとの話よ。それ以外何があるの」

そう言われて驚いて葉子の顔を見てしまう。

「何をそんな驚いた顔をしてるのよ。驚いたのは私たち3人の方なんだからね。掃除機ゆうくんの正体が部長だったなんて。こんなびっくりすることある?」

「よ、葉子は怒ってないの……?」

「怒る? 茉里が相手を隠してたこと? まあ、相手が掃除機ゆうくんなら言えなかったのは理解できるからね。それよりあれだけの溺愛ぶりを目の前で見せられたら、今は興味しかないわ。ねぇ、若菜ちゃん」

葉子の様子を見ていると、私と部長のことを別に嫌だとは思っていないようだ。
葉子の性格だと嫌なら嫌だとはっきり言うだろうし、たとえその気持ちを隠していたとしても、こんな風に興味深々な顔で聞いてくることはない。

それに若菜ちゃんも、葉子に同調するように頷いている。若菜ちゃんの様子がおかしいと感じたのは、私たちのことを不快に思っていたのではなくて、単なる体調が悪かったからなのだろうか?

「茉里、ランチの時間が終わっちゃうから早く教えて。どうやって付き合うようになったの? 告白はやっぱり掃除機ゆうくんから?」

2人の興味深々な目が私をじっと見つめている。

「どうやって付き合うって……。たまたま同じマンションに住んでて……」

『えっ、同じマンション?』

葉子と若菜ちゃんが一斉に口を開いた。
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