すべてが始まる夜に
唖然とした表情で2人に見つめられ、一瞬戸惑ってしまう。

「きゃあっ──、若菜ちゃん、聞いた? まっ、茉里、マジで言ってるの?」

「茉里さん、ほんとに松永部長ってそんなこと言うんですか?」

2人がまた最高に嬉しそうにニヤニヤと笑いながら両手で頬を覆う。

「イケメンに溺愛されるだけでも羨ましいのに、独占欲が半端なさすぎ……」

「松永部長のイメージが変わりました……」

「だよね。私も……。しばらくこのネタでごはんが食べれそうだわ」

葉子は思い出したように、目の前のカツ丼を口に運びだした。

「あっ、そうそう。若菜ちゃん、あのあとどうだった?」

葉子が出汁が染み込んだカツを箸で掴みながら、若菜ちゃんに尋ねる。

「あのあと、ですか?」

「そう、二次会。すぐ帰ってごめんね。あいつ、大丈夫だった?」

葉子がそう言った瞬間、若菜ちゃんの表情が一瞬変わった──と思ったら、すぐにいつもの笑顔を向けた。

「は、はい。大丈夫でしたよ」

「ほんと? なら良かったけど。 あれからあのお店にしばらくいたの?」

「い、いえ……。少し飲んですぐに帰りました」

「まあ、あいつもね、諦めるしか仕方ないからね」

あいつとは、吉村くんのことなんだろうか?
諦めるって、やっぱり吉村くんは何か悩みごとでもあったのだろうか?

「ねぇねぇ、葉子は二次会に行ってすぐに帰ったの?」

私は気になって聞いてみた。
朝聞いたときには、若菜ちゃんも吉村くんも3人で二次会に行ったとしか言わなかったけれど、葉子はすぐに帰ったってこと?

「そうよ。二次会に行ってすぐ彼氏から家に来るって連絡が入ってね。茉里は私たちが二次会の時間には、掃除機ゆうくん発動中だったと思うけど」

「そ、そんなことないよ……。じゃあ、若菜ちゃんと吉村くんの2人で飲んでたんだ」

そう若菜ちゃんに笑顔を向けると、若菜ちゃんは急に「茉里さん、ひとつ質問していいですか?」と話を変えるように尋ねてきた。
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