すべてが始まる夜に
「自分から好きって言ったのは……、一緒に笑ったり、ごはん食べたり、悩みごとを聞いてもらったり、いろんなこと教えてもらったりするのがね、もし部長に彼女ができたらもうそんなことはできなくなるのかなって思ったの。そしたら急に悲しくなってきて……。部長に彼女ができたら絶対に嫌だなって。そのとき初めて部長のことが好きって思った。私にとってすごく大切な人なんだって」

「茉里の今の言葉聞いたら、松永部長、めちゃくちゃ喜んでさらに茉里のこと溺愛しそうだよね。また掃除機ゆうくんが発動しちゃうかも。ねぇ、若菜ちゃん」

「大切な人、ですか……」

若菜ちゃんは葉子の言葉には答えず、何やら考え込んでいる。

「ちょっとぉー、若菜ちゃんどうしたの? ほんとに好きな人でもできたんじゃない?」

「ちっ、違いますよ」

「ほんと? 実は吉村だったとか言ったらこれまたびっくりだからね! もしかしてあのあと2人でいい雰囲気になったとか……」

「ちっ、違いますって。そんなの絶対にありませんから!」

若菜ちゃんが真剣な顔をして大きく首を横に振るのを見て、葉子が「ごめんごめん」と笑顔を向ける。

「若菜ちゃん、ごめんごめん。冗談よ。あいつにそんな度胸がないことくらい私はよく知ってるから。もし万が一若菜ちゃんに手でも出した日には、私が高級フレンチとシャンパンでお祝いしてあげるわ。まあ、あり得ないけどね」

若菜ちゃんはなぜか微妙な表情を浮かべながら、「そうですね」と葉子に答えていた。
< 373 / 395 >

この作品をシェア

pagetop