すべてが始まる夜に
新 『カフェ ラルジュ』
早いもので、あっという間に3月に入り、少しずつ昼間の陽射しが暖かく感じるようになってきた。
そして福岡の3店舗目のカフェラルジュのオープンまで残り2週間となり、私はとにかくこの店舗だけは成功させようといつも以上に力を入れて取り組んでいた。

部長が新人のときから思い入れのある、如月さんと出逢ったあのギャラリーを改装してのカフェラルジュだ。
部長のためにも、如月さんのためにも、お客さんに「またここに来たい」と思ってもらえるカフェにしたい。

あれだけ悩んでいたフードも、事業戦略部のみんなの意見や、毎日部長とお家で意見を出し合いながら考え、“フードの視覚を仕掛ける” という観点から少しインスタ映えを狙って、人気の野菜たっぷりのローストビーフサンドを、中身を増量して取っ手つきのカッティングボードプレートでの提供にしたり、ふわふわのフレンチトーストは、熱々のスキレットでの提供にしたりと、器と盛り方にこだわることにした。

もちろんテイクアウトで人気のプリンは、店内で注文してもらうと、お洒落な器に出してデコレーションをして提供することにして、事前に撮影した写真をカフェラルジュ専用のインスタに載せると、かなりの反響があり、それもまた私たちの気持ちを盛り上がらせてくれた。



*
「悠くん、福岡の出張だけど、私は日帰りでもいいかな?」

オープンまであと1週間となった月曜の朝、私はいつものように会社へ行く準備をしている部長に声をかけた。

「日帰り? なんでだよ。茉里は担当者だろ?」

部長がネクタイを締めながら、あからさまに不服そうな顔を向けてくる。

「うん、それはよくわかってる。だからギリギリまで福岡にいて、最終便で帰りたいの。もう決めたから」

「決めたって……。理由は?」

部長はネクタイを締める手を止めて、私の顔をじっと見つめてきた。
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