すべてが始まる夜に
「福岡で前泊した方が楽なのに、そんなに俺と一緒に行くのが嫌なのかよ……」

隣から不服そうに、じとっとした目が向けられる。

「わざわざ羽田に泊まるなら、そのまま福岡に行って前泊すればいいのに。誰も何とも思いはしないよ。茉里の考えすぎだって」

「そうかもしれないけど。ちゃんと説明したじゃん……。悠くんだって、それでいいって言ってくれたよ」

「あの時はそう言ったけど、今日も明日も茉里と一緒じゃないんだぞ」

「それは出張に行っても同じでしょ。一緒のお部屋に泊まるんじゃないんだから。周りの人に変な風に思われないためには、私は日帰りの方がいいの」

お前はほんとに頑固だな──と、座っている横から手を掴み、ぎゅっと握られる。

「なあ、このまま羽田のホテルをキャンセルして、俺と一緒に福岡行こっ」

「行かない」

「なあ、茉里……、茉里ちゃん……、まりのすけー」

駄々をこねた子供のように、横から顔を覗き込む部長に、私は「だめっ」と握ってきた部長の手の甲を軽く叩いた。
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