すべてが始まる夜に
突然スマホがブーンブーンと振動し始めた。
画面を見ると部長からだ。
私は急いでスマホをタップした。

「もしもし、悠くん?」

「ああ、今ホテルに到着したよ」

「無事に着いたんだ、よかった。お疲れさま。疲れたでしょ」

「飛行機に乗ってるだけとは言え、さすがに移動は疲れるよな」

たった3時間弱しか離れていないのに、部長の声を聞くと安心すると同時に、すごく会いたくなってしまう。

「茉里は何してたんだ?」

「私は悠くんがいつ到着するのかなって、時計ばかり見てた……。ねぇ、悠くん……」

「んんっ?」

「やっぱり寂しいね。たった3時間しか離れてないのに、悠くんが遠くにいるんだなって思ったら寂しいって思っちゃう。声聞くとすごく会いたくなっちゃうし……。明日会えるのにね。ふふっ」

久しぶりのひとりの時間で部長のことばかり考えていたせいか、素直に自分の気持ちを言い過ぎてしまって、私は途中で恥ずかしくなり、最後は笑ってごまかしてしまった。

さっきまで聞こえていた部長の声が急にスマホから聞こえなくなり、不安になってしまう。

「もしもし、悠くん? 聞こえる? 大丈夫?」

姿が見えない分、もしかして何かあったのでは……と心配していると、「聞こえてるよ」と声が聞こえてきた。
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