すべてが始まる夜に
目覚ましよりも1時間も早く起きた私は、始発の飛行機で福岡に向かっていた。

昨日の夜、部長と電話をしたあとすぐに寝ようと思ったのに、朝ちゃんと起きれるかどうかの心配と、初めてひとりで飛行機に乗って福岡へと向かうという緊張で、ほとんど眠れなかった。
なので、飛行機が離陸し始めたときには眠気に耐え切れず、せっかく富士山が見える方の席を予約したのに、福岡に到着するまで私は一度も起きることもなく爆睡していた。

自分の中ではほんの少し目を瞑っていた感覚だったのに、ガターンという大きな音に驚いて目を開けると、なんと福岡空港だった。

到着ロビーを出て、タクシーに乗ってカフェラルジュの新店舗へと向かう。
新店舗へ到着したのは、ちょうどオープン時間の1時間前だった。

「おはようございます」

ドアを開け、店内に入ると、スタッフが忙しそうに開店前の準備をしていた。
部長はどこにいるんだろうと店内を見渡すと、何やら奥の方でスタッフらしき男性と話をしている。
その姿を見て安心した私は、自然と笑みを零していた。

たった16時間しか離れていなかったのに、会えたことがうれしくて、こんなにも好きだという気持ちが溢れている。
私は胸に手を当てて深く息を吸い込むと、その気持ちを抑えるように深呼吸をした。
そしてそのまま部長に近づいていき、声をかけた。

「おはようございます。遅くなりましてすみません」

「おお、無事に着いたか」

にこっと微笑んでくれる笑顔が、うれしくてたまらない。

「はい、定刻通りに到着しました」

「そうか。……んんっ? おい、荷物は?」

「羽田のコインロッカーに預けてきました。部長、それより私もオープンまでに準備をしたいのですが、何か手伝うことはありますか?」

仕事のスタイルを崩さないように尋ねると、「先に店長を紹介するよ」と、部長が隣にいた男性を紹介してくれた。
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