すべてが始まる夜に
そして──。
ドアの前でスタッフの方たちがお客さんを迎え入れる準備を始める。
時計の針が10時を指し示し、スタッフのひとりがドアを開けると、外に並んでいたのか、お客さんが続々と店内に入ってきた。

その様子を見て感動してしまい、いろんな思いが込み上げてきて、思わず涙が出そうになる。
私はグッと堪えると、スタッフの方たちと一緒にお客さんを笑顔で出迎えた。

事前にインスタに掲載していたせいか、ほとんどのお客さんがローストビーフサンドや、ふわふわのフレンチトーストを注文して、スマホで写真を撮っている。

注文したコーヒーやフードをテーブルに並べ、嬉しそうに構図を考えながら写真を撮っている姿を見ると、ますます感動してしまう。
それにテイクアウトで人気だったプリンも、思いのほかお客さんが注文してくれているようでびっくりしてしまった。器に出してデコレーションするだけで、こんなにも反響があるとは……。

スタッフの人たちも忙しそうだけど、店長の林さんも厨房で忙しそうにフードを作っている。
だけどみんな笑顔で楽しそうだ。
ついさっきまで、お客さんが来なかったらどうしようとか、フードの反響も通常の店舗と変わらなかったらどうしようと不安だったけれど、ここにいるスタッフやお客さん全員の笑顔を見ていたら、そんなことは吹っ飛んでいってしまった。

「あっ、如月さんお久しぶりです。ご来店、ありがとうございます」

このギャラリーのオーナーだった如月さんが、お友だちと一緒にやってきてくれた。

「あら、白石さんお久しぶり。また会えてうれしいわ。すごいわね、大盛況じゃない」

「そうなんです。ほんとに安心したというか、ほっとしてます。こちらのテーブルにどうぞ。すぐに松永を呼んできますね」

私は如月さんたちをテーブルに案内すると、部長に如月さんが来てくれたことを告げた。
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