すべてが始まる夜に
「悠くん、ラルジュのオープン、大盛況だったね。ほんとによかった……」

「お前、今、俺が言ったこと、無視しただろ?」

「むっ、無視してないよ……。ほんとに今日中に帰らないといけないもん。明日仕事だし……」

「まったく……。俺がこんなに寂しがっているのに、お前はあっさりとしたもんだ……」

さっきまでのてきぱきと動いて指示をしていた部長はどこへ行ったのか、すっかり拗ねた子どものようになっている。

「私も寂しいよ。帰ってもお家に悠くんいないし、今日はあのお部屋にひとりなんだって思ったらすごく寂しいもん。だけどね、今日悠くんの仕事している姿見ていたら、ほんとにすごいなって感動して……。いろんな人に慕われて、その人たちはみんな笑顔で、悠くんのことが大好きで……。みんなを幸せにできる悠くんって本当にすごいと思ったの。そんな悠くんのそばにいれるなんて私はすごく幸せだなって。だからね、寂しくても幸せ」

にこっと微笑んだ瞬間、突然、手を引かれたかと思ったら、そのままふわりと抱きしめられた。

「ちょっ、ちょっと悠くん? ここ空港だよ……。みんなが見ちゃうよ……」

「知ってるよ。誰が見たっていいだろ。そんなことは構わない」

ぎゅっと、腕の力が強くなる。

「お前は俺がこのまま東京に帰りたくなるようなことばかり言いやがって……」

「悠、くん……?」

「茉里、今日までよく頑張ったな。今日のオープンが成功したのは、茉里が一生懸命頑張った成果だよ」

「悠くん……」

部長の言葉に、自分の仕事が認められたようで、瞳にじわじわと熱いものが込み上げてくる。
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