すべてが始まる夜に
「おそらく今日の反響だと、福岡店はかなりの人気店になるだろう。この成功で、ラルジュもこれから変わっていくと思う。そのきっかけを茉里が作ったんだ。ほんとによく頑張ったな」

部長は腕を解くと、私の顔を見た。

「何で泣いてるんだよ……」

「だって……悠くんが褒めてくれるとうれしいもん……」

そっと涙を指で拭ってくれる優しさに、朝からずっと抑えていた好きな想いが溢れてしまう。

「悠くん……だいすき……」

部長は一瞬目を見開いたあと、再び私を抱きしめた。

「お前はまたここで俺に試練を与えるんだな……」

「し、れん……?」

「土曜日、2人でしっかりお祝いしような」

頷くと同時に、また涙が溢れ出す。

「茉里、そろそろ入らないと、飛行機に乗れなくなるぞ」

私は両手で涙を拭ったあと、部長の顔を見た。

「悠くん、明日、帰ってくるの待ってるね」

「ああ、羽田に着いたら遅いからタクシーで帰れよ。家に着いたら連絡して」

「わかった。じゃあね」

私は泣き笑いのような笑顔で部長に手を振ると、検査場の中へ入っていった。
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