すべてが始まる夜に
Will you marry me?
「茉里、今日はホテルで待ち合わせでもいいか? ちょっと大事な仕事があって、ホテルまで一緒に行けないんだ」

土曜の朝、マグカップを手に持ってコーヒーを飲んでいた部長が、今日のお祝いのことについて話し始めた。

「大事な仕事ってラルジュの福岡店の仕事?」

ラルジュの福岡店はあれから客足も途絶えることなく順調で、日に日に売り上げを伸ばし、インスタでも話題となっていた。
部長が福岡から戻ってきて、急遽、新カフェラルジュ展開案の会議が開かれたほどだ。
それに関わる仕事かと思って尋ねると、違うよと返事が帰ってきた。

「ラルジュは関係ないんだ。それとは全く違う別の大事な仕事があってさ。15時にはホテルにチェックインできるから、そのくらいの時間に合わせて来てくれるか? ごめんな」

「ううん、大丈夫。じゃあ、15時くらいにホテルに到着するように行くね」

私は笑顔で頷いた。

部長はそれから出かける準備をすると、お昼前には出かけて行った。
私も急いで準備をしてマンションを出る。
15時まで自由な時間があるなら、部長にネクタイを選んでプレゼントをしたい。
ほんとはもっと違うものをプレゼントしたかったけれど、部長は何でも持っているから、結局ネクタイ以外のものが思い浮かばなかった。

銀座に行っていくつか気になっていたお店に入り、実際にネクタイを見て、部長が締めている姿を想像してみる。今回は何色のネクタイにしようかと随分迷ったけれど、ロイヤルブルーの格子柄の間に光沢のあるスカイブルーのシャムロックが施されたネクタイを選んでみた。

自分の頭の中では部長にすごく似合っていると思うけれど、部長が気に入ってくれるかどうかはわからない。
前回のように部長が喜んでくれたらいいなと願いながら、私は待ち合わせのホテルへと向かった。
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