すべてが始まる夜に
『誰もそんなこと思っちゃいねぇよ』

女性とは対照的に、男性は声を荒げることもなく、機嫌は悪そうだけれど小さい声のままだ。周りのお客さんたちも素知らぬふりをしているけれど、このカップルの喧嘩に聞き耳を立てているようだ。

イケメンって……。
どのくらいイケメンな男性なんだろう。

私は興味本位からふと顔が見たくなった。
だけど、そのカップルの席は私の斜め後ろだ。
あからさまに顔を後ろに向けることはできない。

『もういいわ。私、悠樹とは別れる』
『そうか。わかった』

ヒートアップした女性は別れを口にし始めた。
それを止めることなくあっさりと受け入れる男性。

まあ、結婚する気のない男性と結婚したい女性だもん。
女性にとっては別れる方がいいかもしれない。

私は小さく頷きながら再びカフェオレを口に運んだ。

『そうか、わかったって……。私が別れるって言ってるのよ。2年も付き合ったのよ。引き止めないわけ?』

んんっ? 引き止める?
今、別れるって言ったよね?
えっ、別れるんじゃないの?

口に含んでいたカフェオレが気管に入ってしまい、思わずむせこんでしまう。ゴホゴホと咳き込みながらどういうことなのかと一瞬考えたあと、私はその言葉の意味を理解した。
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