すべてが始まる夜に
「白石、いい飲みっぷりだな」

「朝ごはん食べてから何も食べてないんです。さっきのカフェでも半分くらいしかカフェオレ飲めなかったし」

そう言いながら、「あっ」と口元を押さえる。
カフェの話題を出したことを気にしているんだろう。

「もう気にしちゃいねぇよ。逆に気遣われる方が傷つく。それよりさっきは本当に悪かったな」

「いえ。もう大丈夫ですから。それより部長、お刺身食べましょ。お醤油どうぞ」

こうしてすぐにその話題から切り替えてくれるところが気が利くというか、部内の雰囲気をよくしてくれることに繫がっているんだろう。
2人で刺身を食べながらビールを飲んでいると、続いて出汁巻き玉子と銀鱈の西京焼きが運ばれてきた。

「白石、お待ちかねのものが来たぞ。温かいうちに食べろ」

出汁巻き玉子の皿を白石の目の前に置く。
ありがとうございますと言った白石は、さっそく出汁巻き玉子を口の中に入れた。

「うわぁ、やっぱりこの出汁巻き玉子美味しい。思ってた通りだ。あー、ここに来てよかったぁ」

本当に旨そうに食べる姿に自然と笑みが零れる。
ふと、可愛いやつだな、と感じてしまった。
この姿を吉村が見たらますます惚れるだろうなと思いながら、俺も出汁巻き玉子を口に入れた。

「ほんとだな。さすが蕎麦屋だけあって出汁がよくきいてる。これは旨い」

出汁のバランスが絶妙なふわふわの出汁巻き玉子だ。
白石が楽しみにしていたというのに、あまりの美味しさに半分以上俺が食べてしまい、追加でもう一皿出汁巻き玉子を注文し、俺は早々に2杯目のビールも注文していた。
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