すべてが始まる夜に
「ああ、いいよ。今日は何でも聞いてやる。また恋愛の話か?」
「はい……。あの、男の人は処女だと面倒なんですか?」

はっ?
俺は口に入れていたビールを思わず噴き出しそうになった。
慌てておしぼりで口元を押さえる。

「お、お前、急に何を言い出すんだよ」

こんな真面目でおとなしい白石の口から処女だと面倒かだなんて、そんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。

「だって部長何でも聞いてくれって言われたじゃないですか」
「そ、そうは言ったが、こんなこと聞かれるとは思わないだろ」

まったく急に何を言い出すのかと思ったら。
そんなこと、部下が上司に言う言葉かよ。
こいつわかってるのか。
これは俺に自分が処女だと白状してるようなもんだぞ。
俺をなんでも相談できる近所のおじさんくらいにしか思ってないのか?
引き攣った頬を無理やり笑みに変えながら、白石の顔を見る。

「マニュアル本にそう書いてあったのか知らないが、それも人それぞれだ。自分の好きな女だったら初めての方が嬉しいだろうし、逆に経験がない女を抱いたら結婚を迫られそうで嫌だと思う奴もいるだろうし。一概には言えないよ」

俺の答えに納得したのかどうか分からないが、白石は「そうですか」と考えこんだあと、「部長はどうして結婚しないんですか?」と今度はいきなりストレートな質問をしてきた。
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