すべてが始まる夜に
*
「茉里、ランチ行ける?」

同期の葉子が事業戦略部のフロアにやってきたのは、11時半を過ぎたころだった。

「今週は第一陣組?」

葉子の所属する経理部は社外からの電話対応や経費処理の問い合わせが多いので、第一陣組として11時半から12時半、第二陣組として12時半から13時半とランチの時間が週ごとにわかれている。どうやら今週は第一陣組のようだ。

「そうなの。第一陣の方が社食のメニューが全部揃っているからいいんだよね。それより今日は松永部長いないんだ」

葉子がきょろきょろと視線を動かしながらフロアの中を探している。

「部長なら今日は朝から会議みたいだよ。部長会議だから葉子の好きな営業部の水島部長もね」

「せっかくイケメンの顔でも見て午後からも仕事頑張ろうって思ったのに」

なんだ、残念すぎる──と残念そうに唇を尖らせている。そんな葉子を尻目に、私は朝から部長の姿を見ていないことにほっとしていた。
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