あなたの隣を独り占めしたい(続編まで完結)
不可解だった事情が一気に解け、私は逆に晴れた気持ちで次の仕事をすべくエレベータに乗り込んだ。
すると、滑り込むようにして乗り込んできた男性がいた。
そのスーツを見てすぐに圭吾だとわかる。
「……おつかれさま」
以前と同じように声をかけると、彼は驚いたようにこちらを振り返る。
「ああ、おつかれ。よく会うね」
「そう?」
以前会った時から結構な日数が経っているはずだけれど、この人にとっては”よく会う”と感じるほどに私はもう遠い存在らしい。
以前の私なら間違いなくここで胸を痛めていたことだろう。
(でも今は不思議なくらい心が揺れない)
自分の心の変化に戸惑いつつも、落ちている沈黙に居心地の悪さを感じた。
(なんか共通の話ってあったかな……)
「あ、そういえば……聞いたよ、坂田さんとのこと」
そう口にした途端、圭吾は驚いた顔で私を見る。
「彼女のことは栞のこととは関係ないよ?」
「あ、うん。別にそれはいいんだけど」
「まだそんな公表するほどの関係じゃないし」
焦ったように視線を逸らした圭吾を見て、言うんじゃなかったなと後悔する。
他にも話題があっただろうに、どうして私は坂田さんのことを口にしてしまったのか。
すると圭吾は取り繕うように優しい声色で誘いの文句を口にした。
「それはそうと、栞。会社じゃゆっくり話せないし、今度外で会わない?」
「……どうして?」
怪訝な顔で聞き返すと、圭吾は別の言葉で言い直した。
「栞には改めて謝らないとって思ってたんだ。あの時は一方的でごめん……俺にちゃんと謝る機会をくれないかな」
(今さら?)
即答で”無理”と答えていい場面だった。
なのに私は返事に困って無言になってしまった。
(本気で謝りたいって思ってるなら……聞いてあげるべきなのかな)
「今答えにくいなら、後でメールしてくれてもいいけど」
「ううん、メールはしない」
「なんで?」
「なんで……って」
その時エレベーターが止まり、思いがけず佐伯さんが乗り込んできた。
あまりのタイミングに私は口だけぱくぱくさせてしまう。
(どうしよう。ここで助けを求めるのも違うよね。でも……)
このまま誘われ続けたら、会うだけならと言ってしまいそうな怖さがあった。
(ここできっちり断らないと)
視線を泳がせていると、ふいに肩が引き寄せられ、頭上で低い声が響いた。
「栞、今夜の店は俺が決めるってことでいいんだっけ」
「え?」
視線を上げると、佐伯さんがまるでもう心が通じ合った人のように私を見下ろしている。
「夜会う約束、忘れた?」
「あ、いえ。はい……それでいいです」
「ん。じゃあ今夜」
頭をくしゃっと撫でると、彼は次に止まった場所で降りていく。
同じ階に用だったのか、驚き顔の圭吾もエレベーターを降りていった。
(佐伯さんが恋人のふりをして、助けてくれた?)
閉じたエレベーターのドアを見つめながら、私は耳の血管がドクドクと音をたてるのを聞いていた。
すると、滑り込むようにして乗り込んできた男性がいた。
そのスーツを見てすぐに圭吾だとわかる。
「……おつかれさま」
以前と同じように声をかけると、彼は驚いたようにこちらを振り返る。
「ああ、おつかれ。よく会うね」
「そう?」
以前会った時から結構な日数が経っているはずだけれど、この人にとっては”よく会う”と感じるほどに私はもう遠い存在らしい。
以前の私なら間違いなくここで胸を痛めていたことだろう。
(でも今は不思議なくらい心が揺れない)
自分の心の変化に戸惑いつつも、落ちている沈黙に居心地の悪さを感じた。
(なんか共通の話ってあったかな……)
「あ、そういえば……聞いたよ、坂田さんとのこと」
そう口にした途端、圭吾は驚いた顔で私を見る。
「彼女のことは栞のこととは関係ないよ?」
「あ、うん。別にそれはいいんだけど」
「まだそんな公表するほどの関係じゃないし」
焦ったように視線を逸らした圭吾を見て、言うんじゃなかったなと後悔する。
他にも話題があっただろうに、どうして私は坂田さんのことを口にしてしまったのか。
すると圭吾は取り繕うように優しい声色で誘いの文句を口にした。
「それはそうと、栞。会社じゃゆっくり話せないし、今度外で会わない?」
「……どうして?」
怪訝な顔で聞き返すと、圭吾は別の言葉で言い直した。
「栞には改めて謝らないとって思ってたんだ。あの時は一方的でごめん……俺にちゃんと謝る機会をくれないかな」
(今さら?)
即答で”無理”と答えていい場面だった。
なのに私は返事に困って無言になってしまった。
(本気で謝りたいって思ってるなら……聞いてあげるべきなのかな)
「今答えにくいなら、後でメールしてくれてもいいけど」
「ううん、メールはしない」
「なんで?」
「なんで……って」
その時エレベーターが止まり、思いがけず佐伯さんが乗り込んできた。
あまりのタイミングに私は口だけぱくぱくさせてしまう。
(どうしよう。ここで助けを求めるのも違うよね。でも……)
このまま誘われ続けたら、会うだけならと言ってしまいそうな怖さがあった。
(ここできっちり断らないと)
視線を泳がせていると、ふいに肩が引き寄せられ、頭上で低い声が響いた。
「栞、今夜の店は俺が決めるってことでいいんだっけ」
「え?」
視線を上げると、佐伯さんがまるでもう心が通じ合った人のように私を見下ろしている。
「夜会う約束、忘れた?」
「あ、いえ。はい……それでいいです」
「ん。じゃあ今夜」
頭をくしゃっと撫でると、彼は次に止まった場所で降りていく。
同じ階に用だったのか、驚き顔の圭吾もエレベーターを降りていった。
(佐伯さんが恋人のふりをして、助けてくれた?)
閉じたエレベーターのドアを見つめながら、私は耳の血管がドクドクと音をたてるのを聞いていた。